「おい、サクラ。ここ開けろ」 「やだやだやだやだ!」 今、俺とサクラの間には一枚のドアが隔たれている。そのドアの先は浴室へと続いており、サクラが入浴しようとしている最中だった。ならば俺も一緒に入ろうと思い、浴室に向かったのだが。俺の気配を読み取ったのかそのドアには鍵がかけられてしまった。 「開けろって」 「絶対嫌!」 「何でだよ」 「今日は絶対一人で入るって決めたの!」 サクラは頑固たる態度で抗議してきた。何がそこまでサクラを奮い立たせているのか分からない。 「おい。理由もなく拒否される気持ち考えてみろ」 「サスケくんこそ。過去に犯した罪を振り返ってみたら?」 「はあ?」 「とにかく、ここは絶対に開けません!」 サクラはそこまで言い切ると、どうやら風呂に入ったらしい。微かにシャワーの音が聞こえる。サクラは何を頑なに拒否しているのだろう。俺がサクラに何をしたっていうんだ。俺はいつだってサクラ第一主義だ。 「…解せない」 考えたところで答えは出てこなかった。しかし、サクラを説得しないとこの目の前に立ちはだかる扉は開かない。くそ、こんな板さっさと撤去すれば良かった。 「…どうしたものか」 サクラはシャワーを浴びている真っ最中だ。ここから声をかけたところで一切声は届かないだろう。しかし説得するには声を届けなければ意味がない。少しの間考えたあと、ふとドアの鍵穴が目に入る。 「……」 俺は徐に居間へと戻ると、任務にも持っていくポーチから針金を取り出す。それを持って再び忌々しいドアの前に立つと、鍵穴にさした。 「……」 しばらく弄っていると、かしゃん、という音が聞こえた。用が済んだ針金を放り捨てると、ドアを開けた。 「サクラ」 「サスケくん!?え、鍵は?!」 「開けた」 「はあ!?」 脱衣所から声をかけると、サクラは素っ頓狂な声をあげた。邪魔なTシャツを脱ぎ捨てると籠に放る。そして浴室の扉を勢い良く開け放った。サクラは少しでも体を隠したかったのか湯船に浸かっている。 「きゃっ!」 「今さら隠すことないだろ。全部見た」 「そういう問題じゃない!」 「まあ、その初々しい反応は好きだが」 「しれっと言わないでよ馬鹿…」 俺は頭から湯を浴びると、湯船に体を沈める。俺が入ったことで、湯船から湯が溢れ出る。サクラが恨めしそうに睨んできていたので、頬杖をついて応えてやる。 「何?」 「…何で入ってきたの」 「一緒に入りたかったから」 「鍵こじ開けてでも?」 「ああ」 サクラは諦めたのか、小さくため息をついた。 「…サクラ、それ反則」 「へ?」 湯で火照り、赤い頬。髪から滴り落ちる雫。髪をあげたことで見える項、後れ毛。そこに艶かしいため息をつかれては、もう我慢できない。 「説教はあとで聞く」 「え、ちょ!やだやだやだー!」 「すぐ良くなる」 「そういうこと言うな変態ー!」 それから暫くした後。すっかりのぼせたサクラから、俺は非難の声を浴びせられたのだった。 好き過ぎて (愛情表現が過剰になるだけ) 20120904 |